リウマチセンター3周年記念講演会を開催しました

I. はじめに

平成26年6月27日(金)18時より芝蘭会館稲盛ホールにて、京都大学医学部附属病院リウマチセンター開設記念講演会を開催した。
当日は、学内35名・学外30名、計65名の方にご出席いただいた。

II. 式次第

1. 開会の辞(18:00~18:05)
免疫・膠原病内科 教授・診療科長
リウマチセンター長           三森 経世
2.京大リウマチセンター3年間の取組みと今後の方向性について (18:05~18:45)

座長 整形外科 伊藤 宣
リウマチセンター 特定助教 橋本 求
リウマチセンター 特定助教 布留 守敏
リウマチセンター 特定教授 藤井 隆夫
3. 特別講演(18:45~19:35)
座長 免疫・膠原病内科 教授・診療科長
   リウマチセンター長           三森 経世
「関節リウマチの関節破壊機序の解明と治療法の確立-偶然と準備-」
兵庫医科大学 リウマチ・膠原病内科 教授 佐野 統 先生
4. 閉会の辞(19:35~19:40)
整形外科 教授・診療科長 松田 秀一

III. 京大リウマチセンター3年間の取組みと今後の方向性

橋本 求 特定助教から、京大病院リウマチセンターが取り組んできた関節リウマチ患者の臨床情報のデータベース:KURAMAコホート(Kyoto University Rheumatoid Arthritis Management Alliance)の紹介があった。京大病院リウマチセンターでは、センターに求められる役割として、関節リウマチの治療に関するエビデンスを発信したり、臨床データを疫学研究や基礎研究に活用したり、患者へ診療情報をフィードバックするためには、しっかりした臨床情報のデータベースを持つことが肝になると考え、センターの開設前からスタッフ一丸となって準備を重ねてきた。その結果、2011年5月1日のリウマチセンター外来の開設初日から、センターを受診するすべての患者のすべての受診日の診療データをKURAMAデータベースとして登録している。
そして、KURAMAコホートを用いた臨床研究の例として、以下の3つの研究内容の紹介を行った。
1.関節リウマチと天気の関係
2.関節リウマチと歯周病の関係
3.関節リウマチに合併する貧血に対する治療法
1つ目の研究は、KURAMAに蓄積されたのべ2万件を超える関節データと、気象庁がホームページで公開している気象統計との相関を解析し、関節リウマチの症状と気象情報のひとつである気圧との間に有意な相関がある(気圧が低くなると関節症状が悪化する)ことを見出したユニークな研究で、学術誌PLOS ONEに掲載されたほか、京都新聞ほか新聞各紙で紹介されたり、関西地方のNHKのニュースで報道されるなど反響があった。
2つ目の研究は、京都大学歯科・口腔外科との共同研究で、KURAMAに登録されている無治療の未分類関節炎の患者の歯周病状態と関節リウマチの進展との相関をみた観察研究で、歯周病のある患者は、歯周病のない患者よりも将来関節リウマチと診断されメトトレキサート治療を導入される可能性が高いという結果であった。この研究結果は、第57回日本リウマチ学会で報告し、日経メディカルでも紹介された。
3つ目の研究は、関節リウマチにしばしば合併する貧血に対する治療の研究で、近年の研究で、IL-6によって誘導されるヘプシジンが炎症性貧血の原因物質であると推定されたことから、KURAMAで生物学的製剤で治療された患者さんの貧血の改善具合を比較した。その結果、IL-6を阻害するアクテムラを使用された患者は、他の生物学的製剤を使用された患者よりも3ヶ月後の貧血の改善がよいという研究が得られ、学術誌PLOS ONEに掲載された。
KURAMAコホートからは、臨床上の実感に即したユニークな研究が続々と生まれており、最近は、関西のほかの大学からもKURAMAコホートのシステムを使用して共同で臨床研究を行いたいという申し出も受けている。京大病院リウマチセンターとしては、今後、それらの大学とも協力して、リウマチ診療にとって役に立つ情報を発信していきたいと考えている。

布留 守敏 特定助教からはKURAMAコホートから5つの研究を紹介した。
1つ目は、患者全般評価と医師全般評価の解離の研究で、乖離する原因として身体機能障害や疼痛VASがあげられた。
2つ目は、寛解維持率と画像進行の解析で、SDAI寛解を5割以上維持すると急速画像進行がみられないが、CDAI寛解やDAS28寛解を5割以上維持しても急速画像進行例があり、日常診療での寛解の目安を提示した。
3つ目は、足趾変形のX線画像評価と身体機能障害の解析で、変形の形態と身体機能障害の関係について紹介した。
4つ目は、関節リウマチにおける運動療法の研究で、低力価で速い高速運動は疾患活動性や関節痛を悪化させずに、身体機能の向上に寄与した。
5つ目は、可溶性酸化LDL受容体1(sLOX1)と関節リウマチの研究で、sLOX1の血中濃度は自己抗体(RFやACPA)の発現とは非依存性に、疾患活動性と相関した。
最後にエコー外来について紹介した。

藤井 隆夫 特定教授からは年間の受診者数、手術数もふくめた治療の実態を紹介した。KURAMAコホートを用いた研究はすでに紹介されたが、当センターの今後の研究の方向性を簡単に示した。特に当センターの特徴である内科的なアプローチ(全身性自己免疫疾患としての関節リウマチ研究)と整形外科的アプローチ(骨破壊を特徴とする疾患としての関節リウマチ研究)の両者が同時に行える講座であることを強調した。

Ⅳ.特別講演
「関節リウマチの関節破壊機序の解明と治療法の確立-偶然と準備-」
兵庫医科大学 リウマチ・膠原病内科 教授 佐野 統  先生

京都府立医科大学ご出身で、大学院を京都大学第二内科で研修された佐野先生より、ルイ・パスツールの、「偶然は準備をしないものを助けない」という言葉をキーワードに、これまでの研究生活を振り返ったご講演をいただいた。毎日の診療を糧に、診療で得られた疑問を研究につなげ、また長期間にわたって研究の準備を続けることが、後の成果につながることを、ご自身の体験を元に具体的に語っていただいた。リウマチセンターが今後も研究を続けていく上で、大変教訓となる貴重な講演であった。

Ⅴ.情報交換会
講演会終了後に、引き続き山内ホールにて情報交換会を行った。来賓の京都大学大学院医学研究科メディカルイノベーションセンター 成宮 周 先生、国立病院機構京都医療センター 院長 中村 孝志 先生、また公立甲賀病院 院長 清水 和也 先生からお言葉をいただいた。