概要

 本リウマチセンターは、全身の関節炎をきたす、関節リウマチおよびリウマチ性疾患に関する集学的な治療、最先端の効率的な研究、組織だった教育の実践を目的に設立されました。

背景

 関節リウマチは、その患者数が全国で70万人以上と推定される「ありふれた疾患」(Common Disease)です。近年、生物学的製剤などの強力な治療薬の導入により、関節リウマチの治療は以前と全く異なるものとなりました。そのため、関節リウマチを早期に診断して強力な治療介入を行うことにより、速やかに寛解導入を目指す治療戦略が世界的に標準化されようとしています。しかし、その実践とデータ採取、解析は、専任の講座およびセンター組織なくしては実現困難です。一方、薬物治療が進歩した現状でも手術治療を必要とする患者さんは多く、また生物学的製剤使用下での手術の有効性と安全性についてはこれから確立していかなければなりません。また新しい手術法、インプラントなどの開発も重要です。更に、関節リウマチの診断および治療にはなお未解決な問題が多く、よりよい診断法、治療法の開発が望まれます。そのためには、本学内の複数講座および他施設との共同研究が必要で、また臨床サンプルを用いた系統的な研究が必須です。一方、関節リウマチの診療には、薬物治療と手術だけでなく、リハビリテーションや看護ケアを含めたトータルケアが非常に重要で、そのためには免疫・膠原病内科と整形外科の共同体制を中心とし、それのみでなく、関節リウマチの合併症や薬剤の副反応を熟知した薬剤師、リウマチ専門看護師、理学療法士および作業療法士の育成が急がれます。また限られた医療資源で最先端の関節リウマチ治療を実現させるためには、診療部門ごとの縦割りの構造ではなく、関節リウマチ診療に関わる医師、コメディカルおよび研究者が協力するセンター組織の設置が非常に重要と考えられます。 これまで、京大病院では、整形外科と免疫・膠原病内科がそれぞれ独自に関節リウマチの患者さんを診療してきました。それぞれの診療科は日本および世界をリードする成果を挙げており、またお互いによい協力関係にありますが、それぞれが診断、治療、研究、教育を別個に行っていることは必ずしも効率的とはいえず、あらたにリウマチ性疾患を総合的、集学的に扱う専任講座とセンター組織が求められていました。

目的

 関節リウマチおよびリウマチ性疾患の集学的治療を実践するために京大病院リウマチセンターを設置し、また学内および学外の各診療科、各病院、研究所、学会や官公庁などと協力して関節リウマチおよびリウマチ性疾患の包括的な研究を進めることが本センター設立の目的です。更に、医学生を含めた医療者の教育のみならず、関節リウマチの患者さんとその家族および一般市民に、関節リウマチという疾患を認知していただくことは、関節リウマチの治療を進め、また社会的なサポートを得るために非常に重要であり、そのためには系統だった教育組織としてのセンターが必要です。さらに当センターでは、関節リウマチに限らず多くの関節炎をきたす疾患(リウマチ性疾患)を総合的に扱い、その診断、治療、研究を推進することを目標とします。すなわち、関節炎をきたす、関節リウマチおよびリウマチ性疾患に関する集学的な治療、最先端の効率的な研究、組織だった教育の実践がこのセンター設立の目的です。

期待される成果

 本センターでは、関節炎をきたす種々の疾患の診断と、生物学的製剤を含む最新の治療法を実践し、QOLを高めるための集学的「診療」を行い、同時に関節リウマチの患者さんのデータベースと試料バンクを構築し、それらを利用した基礎的および臨床的「研究」を推進し、学生、医師、コメディカルを含めた医療者、患者さんおよびその家族の方がた、一般市民の方がたに対する「教育」を行います。また臨床および研究の両面で、学内、地域内あるいは広域で他部門、他施設との連携を積極的に行います。このように、関節炎をきたす関節リウマチを中心とするリウマチ性疾患に特化した、専任の京大病院リウマチセンターを設置することで、より効率的な集学的治療が可能となり、また現在使用されているものだけでなく、今後新たに開発・導入される治療薬、検査法、手術インプラントなどのデータ採取と解析が容易になり、結果を対外的に発信していくことが可能となります。人員増加と新たな外来設置により、より多くの患者さんを受け入れることができ、集学的な治療を行うことが可能となります。一般診療所では診療困難な患者さんを、京都および近隣都道府県全域から受け入れることで、地域医療に対する貢献度もきわめて大きいと考えられます。関連他施設を含む大規模コホート研究や前向き臨床研究により、本邦における先進的関節リウマチ治療のエビデンス構築に貢献できます。関節リウマチ・リウマチ性疾患に関する基礎研究が推進され、関節リウマチ・リウマチ性疾患の病因と病態の解明に貢献し、新たな治療法や診断法の開発につなげることができます。本センターで教育を受けた医師やコメディカルが、関連病院のリウマチ性疾患診療において中心的な役割を果たすことができます。リウマチセンターの設立によって、これらの成果を迅速に成し遂げていくことが期待されます。

 みなさまのご協力をどうぞよろしくお願いします。