京都大学医学部附属病院リウマチセンター開設記念講演会
I. はじめに
平成23年3月26日午後2時より京都大学楽友会館2階会議・講演室にて、京都大学医学部附属病院リウマチセンター開設記念講演会が厳かに行われました。内外から併せて86名の参加がありました。
II. 式次第
1. 開会の辞 | |
京都大学医学部附属病院長 中村孝志 | |
2. 祝辞 | |
京都大学理事 塩田浩平先生 | |
京都大学大学院医学研究科長 湊長博先生 | |
京都大学医学部附属病院副看護部長 山中寛惠様 | |
3. リウマチセンターの紹介 | |
「リウマチセンターの設立経緯と目的」 京都大学医学部附属病院リウマチセンター 伊藤宣 |
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「京大病院リウマチセンターがめざすもの」 京都大学医学部附属病院リウマチセンター 藤井隆夫 |
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4. 開設記念特別講演1 | 座長 京都大学医学部附属病院長 中村孝志 |
「リウマチ性疾患の関節破壊制御 ―どこまで可能か―」 富山大学大学院医学薬学研究部 整形外科・運動器病学 教授 木村友厚先生 |
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5. 開設記念特別講演2 | 座長 京都大学医学部附属病院リウマチセンター長 三森経世 |
「関節リウマチ診療の進歩におけるリウマチセンターの役割」 東京女子医科大学附属 膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中寿先生 |
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6. 閉会の辞 | |
京都大学医学部附属病院リウマチセンター長 三森経世 |
III. 祝辞
1. 京都大学理事 塩田浩平先生 祝辞

京都大学医学部附属病院におけるリウマチ性疾患は、免疫膠原病内科教室と整形外科教室において診断、治療および研究において世界をリードする成果を上げてきたが、それぞれの診療科において独自に診療や研究が行われていた。リウマチ性疾患は病態が多様であり、内科的診療及び外科的診療のみならず、関連する診療科やリハビリテーションおよび看護ケアなどのトータルケアが必要な疾患である。従って診療科の垣根を越えた集学的医療を目指したリウマチセンターの設立が望まれていた。そこで田辺三菱製薬株式会社、ブリストル・マイヤーズ株式会社、アボットジャパン株式会社、中外製薬株式会社、エーザイ株式会社の5社のご協力を得て、京都大学大学院医学研究科寄付講座リウマチ性疾患制御学講座ならびに京都大学附属病院リウマチセンターを設立する運びとなった。この10年の間に生物学的製剤の登場と関節鏡手術や人工関節置換術などの優れた手術療法によりQOLが飛躍的に改善されてきたが、まだまだ不明な点が多く、新しい診断法や治療法の開発と病態の解明が求められている。京都大学医学部附属病院は、現在まで多くの診療科において先端医療や高度医療が行われており、我が国の医療を牽引してきた。京都大学附属病院リウマチセンターの設立により、リウマチ性疾患の診断、治療および研究において中心的な役割を果たすことを期待している。
2. 京都大学大学院医学研究科長 湊長博先生 祝辞

関節リウマチとその周辺疾患は、高齢化社会が進んでいる我が国において、最も重要な国民的医療課題であり、また医療人としてもっとも多くの力を注ぐべき課題であることは多くの方が認めるところである。現在は生物学的製剤の登場によりリウマチ性疾患の疾患活動性が良好にコントロールできるようになってきた。京都大学ではこれまで、免疫学、ゲノム疫学、創薬等において世界をリードする研究がなされており、そういったバックグラウンドの下で、京都大学附属病院リウマチセンターが中心となって、多くのグループと文字通りの協力関係を築き、診断、治療および研究において国内だけでなく世界に向けて新しい発信が行われることを期待している。
3. 京都大学医学部附属病院副看護部長 山中寛惠様 祝辞

関節リウマチではADL障害により通常の生活ができない方が多い。京都大学医学部附属病院では平成22年5月から積貞棟の1階で生物学的製剤の治療を開始しており、ADLが改善し喜んでいる声が多く聞かれる。京都大学医学部附属病院リウマチセンターを通じて、より良い治療、新しい治療が開始され、1人でも多くの患者様の痛みが軽減されて苦痛を少なくすることがすべての患者の願いであり、看護師としてもお手伝いしたい。
IV. リウマチセンターの紹介
1. 「リウマチセンター設立経緯と目的」
京都大学大学院医学研究科リウマチ性疾患制御学講座
京都大学医学部附属病院リウマチセンター
伊藤宣
関節リウマチの治療は、早期診断、早期治療の原則を元に寛解を治療目標とできるようになってきた。しかし薬物治療法の混迷、病診連携の不足、手術やリハビリテーションの重要性の再認識と治療体系での位置づけが不明瞭であることなど、多くの課題がある。一方、京大病院におけるリウマチ治療は、先端的治療を行っているものの、一貫した統一的なシステムがなく、治療、教育、研究を包括した組織がないなどの問題を抱える。今回、集学的治療、効率的な研究、包括した組織を作ることを目的にリウマチセンターを設立した。これは免疫・膠原病内科と整形外科が協力し、これに看護部やリハビリテーション部の協力を得ることで独立したリウマチ治療専任のセンターとし、病院内の各部署、医学部内の研究部門、さらに学外の学会や官公庁、他施設、地域連携や患者団体との連携を持ちながら、日本の関節リウマチ治療の発展に貢献することを目標とするものである。
2. 「京大病院リウマチセンターがめざすもの」
京都大学大学院医学研究科リウマチ性疾患制御学講座
京都大学医学部附属病院リウマチセンター
藤井隆夫
免疫・膠原病内科では以前から「京都リウマチネットワークフォーラム」として、近隣の診療所・病院とのRA診療の連携を試みてきたが、決して充分ではなかった。その原因として、京都近郊のRA診療は整形外科医が中心で、内科と整形外科との壁があった可能性がある。今後はリウマチセンターが一体となって近隣診療所とより連携を密にしたい。理論的には、2010年新分類基準によりRAを早期に診断し、MTX、生物学的製剤をはじめとした強力な抗リウマチ薬を用いてTreat to Target strategyを用いて治療すれば、関節破壊が抑制でき、患者QOLが維持できる。しかし、感染症などの副作用も考慮すると本邦でこの「欧米式」治療法が真に有用かどうかは定かでなく、リウマチセンターで検証していく。またRAの発症には、遺伝的素因に加えて環境因子が関与するが、環境因子についてはまだ不明な点が多く、今後多くのRA患者検体を用いて明確にしていきたい。
V. 開設記念特別講演
1. 「リウマチ性疾患の関節破壊制御—どこまで可能か—」
富山大学大学院医学薬学研究部 整形外科・運動器病学 教授 木村友厚先生
座長 京都大学医学部附属病院長 中村孝志
関節リウマチの治療はここ数年で非常に進歩したが、薬物治療の進歩下にあっても多くの患者がpartial responderであり、真の寛解は非常に限られている。関節の修復例も多く報告されているが、修復は線維軟骨によるもので、硝子軟骨による修復は得られない。関節リウマチの身体機能消失には関節軟骨破壊が大きく影響することが報告され、これまでの骨破壊の阻止を目指した治療に加え、chondro-protectionを目指した新たな治療法の開発が必要である。これまでのMMPやアグリカナーゼなどの軟骨マトリックス分解酵素阻害薬は副作用などで成功しておらず、その一つの可能性がAP-1をターゲットとした低分子化合物である。
2. 「関節リウマチ診療の進歩におけるリウマチセンターの役割」
東京女子医科大学附属 膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中寿先生
座長 京都大学医学部附属病院リウマチセンター長 三森経世
東京女子医大では本邦で最も早くRA治療をセンター化した。その一つの成果がIORRA(Institute of Rheumatology Rheumatoid Arthritis、旧J-ARAMIS)である。RA患者の調査(アンケート、30ページ程度)を年2回施行し、毎回98%以上にあたる5000名以上の患者から回収している。IORRAの結果から、医師の投与量と患者服用量は異なること、MTXの普及とともに通院RAの疾患活動性が低下してきたことが判明した。またMTXは週1mg増量することで11%有効性が上昇するのに対し、2.8%しか副作用が増えないことがわかり、MTX増量の公知申請に貢献した。このIORRAが高い回収率を示している理由として、IORRAニュースの発行など患者への還元がある。しばらく時間はかかると思うが、京大病院リウマチセンターが関西におけるRA治療の中心になることを祈念する。そのためには、常に患者の視線にたって診療を行う必要があることを助言したい。
VI. 閉会の辞
京都大学医学部附属病院リウマチセンター長 三森経世

リウマチセンターが設立されたとはいえ、当面は既存の設備施設を利用しつつ、専門外来を中心とする活動となる。免疫・膠原病内科と整形外科のスタッフが緊密な連携の元に同じ場所で診療を行い、患者さんを一元管理することは、我々が目指す集学的治療の実践に近づくことであり、さらには専門コメディカルスタッフの育成によってトータルケアをめざす第一歩でもある。近年は、関節リウマチを早期に診断し、強力な治療を病初期から導入することによって病気の寛解を目指し関節破壊と機能障害の進行を未然に防ぐという考えが主流となりつつあるが、その理想の実現にはまだ多くのハードルがあり、それらの克服を目指す新たな治療の開発やエビデンス構築に対して、現在様々な基礎的研究や臨床研究を準備計画している。さらには患者やご家族、一般市民に向けた情報発信や教育的企画もセンターの使命の一つである。寄附講座「リウマチ性疾患制御学講座」設立の主旨にご賛同いただき、浄財をご寄付いただいた企業関係者の方々にこの場をお借りして深く御礼申し上げる。